この2年で劇的な変化を遂げたわが国経済と証券市場。
そんな中、急速に存在感を高めているのが埼玉県を地盤に事業を展開するむさし証券だ。
地域に密着した対面営業と、「トレジャーネット」の名称が全国ブランドに育ちつつあるネット取引を両輪に成長する
同社のアイデンティティを、小富士夫社長と二人の証券業界のオピニオン・リーダーの座談会で紹介する。
冨田 康夫
(トミタ ヤスオ)
1954年埼玉県生まれ。
株式専門紙、外資系通信社で記者、デスク、編集長として、株式市場、外国為替市場、上場事業会社、銀行、証券会社などを対象に、30年以上にわたって取材活動を展開。現在、「日刊株式経済新聞」編集長。
小 富士夫
(コダカ フジオ)
1956年栃木県生まれ。
駒沢大学卒業後、79年山文証券(現むさし証券)入社。2001年執行役員浦和支店長、04年取締役執行役員、06年取締役常務執行役員を経て、08年より代表取締役社長に就任。座右の銘は「継続は力なり」。
櫻井 英明
(サクライ ヒデアキ)
1957年東京生まれ。
80年日興證券入社、05年「株式新聞Weekly」編集長。06年4月よりラジオNIKKEIの「東京マーケットLIVE」月・火曜後場キャスターを務めている。現在、「ストックウェザー」編集長。
冨田
ではここで、わが国証券市場についてお伺いします。アベノミクスによって活力が戻り、多くの人々からも株式投資が注目を集めるようになりました。NISA導入によって若年層の口座開設も徐々に増えていますが、現在の状況をどのように捉えていますか。
小
証券業界が元気になったとは言っても、まだまだ本当の意味で個人投資家層が広がったとは言えません。私たちにとってはこれからが正念場だと考えています。
NISAに関しては、昨年まで続いていた優遇税制の代替措置ではない、ということを正しく認識しなければならないと思います。NISAはイギリスのISAに倣って、個人投資家を本気で育てるために国策として導入したもので、これは証券業界の悲願でもあり、そのつもりで私たちは使命感を持って取り組まなければならないのです。
櫻井
NISAは現在、投資枠の拡充やジュニアNISAの新設など、使い勝手の向上を目指して制度改正が進められていますが、対象者の拡大や恒久化も重要な検討課題です。例えば非課税の枠が1000万円になれば、富裕層が皆、関心を示すかもしれません。
小
私はNISAを優遇税制ではなく、むしろ年金の補完制度と位置付けるべきだと考えています。NISA導入のこの機会に、国民自らの手で資産を増やせるような大きな流れを作っていくべきではないでしょうか。
冨田
NISAを契機に個人投資家の信頼を取り戻すことができるかどうかも重要ですよね。振り返れば、80年代にも世間の「財テク・ブーム」などで、多くの国民の関心が株式投資に向いた局面もありました。でも、バブル崩壊もあってその流れを生かせなかった。
小
最近でこそ配当や株主優待目的で購入する人が増えるなど、以前に比べて株式投資が身近になってきましたが、まだまだ証券会社に対する誤解は根強い。それは私たち証券業界にも責任があると思います。バブル崩壊後の25年間、証券業界が本当に個人投資家のために行動してきたのかどうか。
そうした思いもあって、当社では現在、個人投資家向けのセミナーを積極的に開催し、地道に啓蒙活動を行っています。私たちが、株式投資へのリテラシーを高める努力をし続けなければならないのです。
櫻井
誰にでも分かりやすい投資の指標をつくるということもこの業界の課題ではないでしょうか。今年、ROEを重視したJPX400がスタートしましたが、現在の日経225は個人投資家にとって非常に分かりにくい。
小
同感ですね。せっかくJPX400がスタートしたのだから、この指標をもっと積極的に活用すればいいと思います。バブルの頃に異常値を付けた日経平均だと、いつまでたっても高値を超えられないですが、JPXならこれから高値をどんどん更新していくことも期待できますし(笑)。
ただ、いずれにせよアベノミクスによって日本の景気が回復に向かい、人々の株式投資への視線が変化しつつあることは事実。各論では議論の余地もありますが、私はこの流れを肯定的に捉え、アベノミクスを応援する姿勢で、最大限の努力をしたいと思います。
そのためにも、金融庁や各地の証券取引所、証券業協会や証券会社が連絡を取り合い、建設的に意見を交換し、関係者全員で一丸となって日本経済長年の悲願である「貯蓄から投資へ」という流れを形成していかなければならないと思っています。
櫻井
次に、今後の投資環境の展望について考えてみたいと思います。私は日経平均が3万円まで上がれば国の財政赤字も解消するし、日本経済を取り巻く問題点は一気に解決すると思っています。アベノミクスによって日本は大きく変わりました。世界の日本に対する視線も変わっているし、企業自体が大きく変わっています。
変わっていないのは個人投資家だけ。明らかに安値で放置されている銘柄がたくさんあるにも関わらず、「株は損をするもの」という意識が払しょくできていない。投資対象さえしっかり吟味すれば、個人投資家が長期で投資をして大きく儲ける喜びを体験するチャンスかはいくらでもあるはずなのに。
冨田
私も今後の日本市場に対しては明るい見通しを持っています。現在、日本の金融機関は各社とも運用先を探している状態ですし、需給関係を考えれば強気相場は当面続くと見ていいでしょう。
より大局的に見れば、25年間のデフレ・トレンドが終焉し、今後はインフレ・トレンドが続く。とは言え、ここが重要なポイントなのですが、現在の経済構造から見て、かつてのような賃金上昇は見込めない。だからこそ、株式を保有することは、人々の生活防衛手段にもなるし、これまで株式投資をしたことがなかった人の中にも、ネットを使って株式を購入し長期で保有する人が増えると思うのです。
櫻井
何といっても現在の株式市場には有望銘柄がゴロゴロしていますからね。例えばミドリムシの研究で知られる某企業とか。フグや海老の養殖技術も日本は世界で最先端ですし、観光分野も要注目。他にも世界に誇れるジャンルが現在の日本にはたくさんある。
小
世界遺産の和食もあるし、商品開発力も高いし、おまけに人間性もいい。まさに現在の日本は「黄金の国ジパング」なんです(笑)。そうした中で、当社としては今後も、投資家の皆様の期待に応えられるよう、対面営業の強化とともに、ネット取引「トレジャーネット」でも積極的にサービスを拡充していきたいと考えています。ネット取引であっても機械的なサービスを展開しようとは思いません。「血の通ったネット取引」こそが目指す姿です。
櫻井
「血の通ったネット取引」はいいですね。ところで将来のネット取引と対面営業の融合についてはいかがお考えですか?
小
私は基本的には、対面営業でもネット取引でも、お客様に接する気持ちは同じであるべきだと思っています。このままIT技術が発展していけば、TV電話で担当者とお客様が双方向で会話をして取引をする、なんてことが当たり前の時代になるでしょう。そうなると、ネット取引と対面営業の長所を生かすことができるのではないか。そんな確信を持って、それぞれのサービスを強化していきたいと考えているのです。
冨田
最後に、むさし証券の経営方針についてお伺いします。投資家と信頼関係を築くためにはその会社の営業姿勢こそが重要になってきます。私が思うに、現在の営業マンはかつての営業マンと比べてやや質が低下しているのかな、という気がします。かつて一流と言われた証券営業マンは、四六時中、株式投資について考えていて、非常にバイタリティがある人が多かった。
小
そうですね、ひと言で言えば、若い営業マン達には「株式で大きく儲けるアドバイスをして、お客様の資産を大きく増やしていただく」という醍醐味を知ってもらいたいなと思っています。私が支店長時代、市況は低迷していましたがそれでも何とかお客様に儲けていただくためのアイデアは無いかと日々、考えていました。市況を言い訳にしてはならないと思います。どんな状況でも株式投資で儲かる方法は必ずあるはずですから。
若い営業マンなら、生活に密着した身近なサービスや商品を提供している銘柄を狙ってもいいでしょう。自分なりに社会や人々の生活に必要だと思う企業を探し出し、お客様に提案するのです。
成長企業への投資は今こそチャンスです。バブル以前、重厚長大産業が中心だった頃と比べれば、現在の日本市場では、将来の成長企業はむしろ増えている。
櫻井
いまの若い営業マンには勝ち癖が無いですもんね。個人投資家からも成功体験がないから株式投資に積極的になれない、という話を聞きますが、それは裏返せば、市況が悪い時に買っていなかったから(笑)。株式投資の一番の魅力が、実力に比べて割安な銘柄に投資して大きく儲けることだということに気が付いていないのです。
小
先日、「投資信託の値段が大きく下落したのに営業マンから何の連絡が無かった」というお客さまからのクレームがありました。大切なお客様と長くお付き合いするためには、営業マンはこういう時こそ連絡をしなければならない。
櫻井
いやあ、その営業マンの気持ちは分かるなあ(笑)。私も営業マンの経験がありますが、信用取引で追い証を取りに行くときの気分と言ったら…。
小
まあ、気持ちは分からなくもないですが(笑)。でも営業として、お客様の資産が例えば「1000万円が300万円になってしまっても平気」では信頼関係なんか築けるわけがありません。1000万円が300万円になってしまったお客様に、300万円を1000万円にするよう、全身全霊でアドバイスをするべきです。
その結果として、お客様のポートフォリオが改善していけば、お客様が友達や家族を紹介してくれたりして、自然に顧客増加に繋がっていきます。営業マンにとっては上昇した700万円以上の付加価値が付いてくるものです。
冨田
私もこの業界に30年以上いますが、信頼関係を維持するのは本当に大切なことですよね。
小
現在の証券業界でも、一部では投資信託の短期売買や高齢者への強引な勧誘で手数料を稼ぐ営業手法が問題になっています。投資家を育てることが最も重要な時に、これでは時代に逆行してしまいますよね。
そうした背景もあって、当社では営業マンへの評価基準を手数料のみに偏ることなく、預かり資産の増加も評価対象にしています。当社の営業マン一人ひとりが、お客様との本当の意味での信頼関係を築くことができれば、必然的により多くの個人投資家の皆様に当社を信頼していただけると信じています。
当然、この考えはネット取引にも当てはまります。対面営業、ネット取引を両輪に、全てのお客様と長く付き合えるような関係を築き、「信頼の輪」を広げていくことが私たちの究極の目標なのですから。その目標に向けて、今後も地道に努力していきたいと思います。
むさし証券の地域密着の強さと顧客指向重視の姿勢は、時折支店などでの株式セミナーの講師を勤めさせていただいて感じているところ。いつでも相談できる形で証券会社の顔の見える姿勢は本来投資家さんが望まれているもの。今後は対面でもインターネットでも十分な対話ができる証券会社が選ばれてくるのではないでしょうか。今回の取材を通して、理想の証券会社実現に向けて着実に歩んでいる印象を強めました。
むさし証券には、同業他社にない独自戦略が多くあることに驚かされました。首都圏という極めて厳しい競争が強いられるなか、埼玉県を地盤に地域密着を掲げ、コンビニエンスストアのような存在を目指す。またネット取引でも信用金利を低く抑えて中期投資を重視するという姿勢を打ち出している。これらの特色は、すべて「本来の意味での株式投資の楽しさをお客様に届けたい」という小社長のビジョンを具体化したものだと思います。
むさし証券株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第105号
加入協会:日本証券業協会